本日とりあげる本は群ようこの『ネコの住所録』(文春文庫)です。気軽に読むことができるこのエッセイについて感じたことをあれこれ書いてみようと思います。
『ネコの住所録』とは
『ネコの住所録』には動物にまつわるエッセイが39篇ほど収録されています。
子どもの頃に飼っていたインコの話、勤務先にしばしばやってきたハチの話、イノシシ家族の父親の不憫さに切なくなる話、ドライブに連れて行った犬が急に行儀よくなった話。
日常にあるような動物にまつわる話がたくさん載せられています。
その中でも、「ネコ」について書いたものはとても多くて、その数は10篇以上。また、直接的に猫がテーマの話でなくとも至るところに猫の話題が出てきます。
私はタイトルに惹かれてこの本を買ったのですが、そのような猫好きの人間にとってはたまらない一冊です。
昭和のネコの姿が楽しめる
最近では猫好きの方も増えているようですが、意外と外出している時に猫の姿を見かけることは少ないような気がしませんか?
近所の人たちに糞尿のことで迷惑をかけないようにと、猫は完全室内飼いが時代の流れ。私が住んでいる大阪では、外出時に猫を見かけるのは年に数回程度です。
令和の時代においては、自宅で猫を飼っていなければテレビやYouTubeの世界でしか猫にはお目にかかれなくなってしまいました。
しかし、『ネコの住所録』の文庫本バージョンは1996年に出版されています。そのことからもわかるように、この本の中で描かれているのは昭和の時代。
野良猫たちが路地裏を歩き回り、飼い猫たちも家から自由に出かけては仲間たちと猫の集会を開いていたころのお話です。
現在40代の私が子どもの頃に見ていた風景がそこかしこに出てくるのです。
馴染みの猫に勝手に名前をつける
エッセイの中にでてくるエピソード
『ネコの住所録』の中には、「猫好きあるある」がたくさん出てきます。その中でも、特に共感をしたのは冒頭に置かれている「二重猫格」のエピソードです。
近所でよく見かけるふてぶてしい猫に、勝手に「ブタ夫」と名前をつけて呼んでいた。声をかけると「ブニャー」と返事してくれるようになった。
ある時、ブタ夫は本物の飼い主に「チャーリー」と呼ばれ「ニャーン」と可愛い声で返事をしていた。やはり、飼い主と通りすがりの人間の間には猫ながらに差をつけているとわかって淋しい。
猫好きさんならこのような体験は誰しもしたことがあるのではないでしょうか。
私の場合は、これを読むと小学校の頃の下校時を思い出します。
子供の頃のエピソード
下校時に通学路でよく出会う猫たちに、友達と勝手に名前をつけていました。
その中の一匹が「しろぷー」。白い毛並みをしていて、友達の家のぬいぐるみの「ぷーすけ」に表情がそっくり。だから「しろぷー」と呼んでいました。
とても人懐っこくて、友達と一緒に声をかけると近寄ってきては隣にちょこんとお座りをするのです。そして、私たちの気が済むまで頭を撫でさせてくれました。
ある時のこと、飼い主の方と「しろぷー」が一緒にいるところに偶然にも出くわしました。
「マイケル」と呼ばれて、飼い主の方の足に頭をこすりつけて甘える白猫の姿。
「しろぷー」は私たちに懐いてくれているのだと思っていたけれど、本当のご主人とはきちんと区別しているのだな。
子どもながらに感じてしみじみとしたことがありましたが、まさにこの本のエピソードと一緒ですね。
『ネコの住所録』の魅力
『ネコの住所録』を読むと、とても懐かしい気分になります。私が子どもだった頃から20代ぐらいまでの日常に近いことが、このエッセイの中にはたびたび出てくるからです。
そして、話に出てくる動物たちに庶民的な感じが溢れているのもいいですね。
血統書付きの猫ではなく、物置で知らぬ間に野良猫が産んだ子供たち。エッセイの中で説明されているわけではないのですが、読んでいるとたぶんこのお話に出てくる猫はそうなのだろうなどと感じます。
下町に暮らす庶民と動物の共存する姿が、肩肘張らずに描かれていること。そのことにとても魅力を感じます。
この本は買ってからすでに20年近く経っているのですが、今でもお気に入りの一冊です。