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【読書日記】『舟を編む』・三浦しをん【備忘録】

2022年8月12日

本日とりあげる本は三浦しをんの『舟を編む』(光文社文庫)です。2012年の本屋大賞にも選ばれた、この小説についてあれこれ書いてみようと思います。

『舟を編む』とは

『舟を編む』とは、新しい辞書『大渡海』(だいとかい)を完成させるために奮闘する人々を描いた小説です。

『大渡海』プロジェクトにかかわる中心人物は三人います。ベテラン編集者の荒木、日本語研究の学者である松本先生、そして入社3年目で辞書作りのために営業から引き抜かれた馬締光也(まじめみつや)。

一癖も二癖もある「言葉」に情熱を持つ男たち。多くの人のサポートを受けながら、ついに辞書の完成を迎えるまでの長き日々はとても興味深いものでした。

辞書作りは人生をかけた仕事

辞書を作るには、長い月日が必要だ。それは薄々感じていました。しかし、これほど長いとは思ってもみませんでした。

一冊の辞書の完成までに約15年

辞書の構想を立てたベテラン編集者の荒木は定年退職をして、社外編集者として編纂に参加。『大渡海』のために辞書編集部に引き抜かれた馬締は、辞書編纂の中心人物として采配をふるえるまでに成長し、かねてから好きだった香具矢(かぐや)さんとの結婚を果たす。そして、学者の松本先生は『大渡海』の完成を見ることなくこの世を去る。

一冊の辞書が完成するまでに、人生の節目となるようなことが幾つも起こるのです。『大渡海』編纂の中心人物の三人は、真面目だけれど融通がきかないタイプに見える人たち。たとえ仕事であったとしても、興味のあることにはとことんまで情熱を傾ける彼らのような人でなければ、この辞書作りプロジェクトを達成できなかったのではと感じました。

言葉集めの大変さ

今年の始め頃だったでしょうか。『三省堂国語辞典』が改訂されました。「MD」「スッチー」などが削除され、「黙食」「ラスボス」が付け加えられたことが話題になりましたよね。

掲載される言葉のチョイスに時代の移り変わりを感じるとともに、編集部の人たちはどのように掲載の言葉を決めているのだろうと考えたことがあります。

けれども、『舟を編む』の中には、私が考えていたのよりも凄まじい世界がありました。

新しい言葉を聞いたら、それを用例とともにメモにして残していきます。その膨大な言葉の山の中から、辞書に入れるのにふさわしい言葉を選び出します。

見出し語だけで20万語以上。そのすべての語に関する説明や用例が正しいかを確認し、辞書のスペースに収まるように文字数を調整しまければなりません。考えただけでも気が遠くなるような地道な作業の連続です。

私の中での勝手なイメージなのですが、『舟を編む』を読むまでは次のように思っていました。

辞書をつくることは、この世にすでにあるものをわかりやすくまとめる作業である。何かを新たに創造するわけではないので、小説などの文学的作品を作るよりも簡単なのではないか

けれども、そうではなかったのですね。

言葉というものはすでにこの世にあって、意味や使い方の正解というものが存在します。正解があるからこそ、ほんの少しの間違いがあってはいけません。辞書作りならではの大変さがあるのだと感じました。

ブログの記事を書く際に、この言葉の使い方はあっているのだろうかと辞書を引くことがたびたびあります。その辞書も、この小説のようにして作られたのかと考えると、今後はその努力に感謝しながら使おうと思います。

  • この記事を書いた人

えいえむ(詠山依麦子)

アラフィフ非正規おひとり様/ブログは2006年から(長い休止期間を含む)/

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