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【読書日記】『燃えよ剣』・司馬遼太郎

2021年10月8日

本日とりあげる本は司馬遼太郎の『燃えよ剣』・上下巻(新潮文庫)です。大学時代に取りつかれたかのように司馬遼太郎を読み漁っていた時期がありました。その中でも特に心に残った作品が『燃えよ剣』でした。その本についてあれこれ書いてみようと思います。

本作における土方歳三の印象

土方歳三の名前を聞いて皆さんは何を思い出しますか? 新選組の副長。池田屋事件。五稜郭の戦いでの戦死。人によってさまざまかと思いますが、たいていの人が新選組になってからの土方歳三を思い浮かべるかと思います。

私もこの本を読む前は「鬼の副長」のイメージ。冷血非道で血も涙もない人間だと思っていました。けれども、それは土方の一面ではあるけれどもすべてではないのだと感じました。

上巻では、武州多摩の時代から新選組が組織として固まるまでにかなりのページが割かれています。そのためでしょうか。他の小説の土方に比べるとかなり人間味を感じます。近藤勇や沖田総司といる時の土方は、少しクセはあるもののどこにでもいそうな青年なのです。

その一方で、やはり芹沢派の壊滅や山南敬助の切腹に関しては冷徹さを拭えません。新選組を組織として維持するためには、たとえ嫌われようとも情に流されずに法や規律を守る人間が必要。立場が人を作るという言葉がありますが、嫌われ役の重要性を把握した上にその素質があった土方が、意識してそういう人間に変わっていったような印象を受けました。

破滅への道

読書をしてページを読み進めていくと、寂しさに襲われることってありませんか? 

だんだん左手で感じる本の厚みがなくなっていく。夢中で読んだ物語の世界が終わる瞬間が刻一刻と近づいている。この愛すべき登場人物たちとお別れするなんて寂しい。

下巻を読むとそのような感情に常に襲われました。

最初の方こそ新選組はだんだんとその存在感を増していき、幕府軍での影響力も大きくなっていきます。でも、それはほんの一瞬のこと。時勢という味方は新政府軍に流れ、新選組に関わる人々は破滅への道を進むことに…。

私は小説を読むと、主人公に激しく感情移入をするタイプの人間です。このページをめくると土方がまた破滅への道を一歩進んでしまう。中盤にさしかかってからは一ページごとに葛藤の連続でした。

歴史小説の登場人物である以上、私が生まれる100年以上前に亡くなっていることはわかっています。その結末がどうなるかも小説を読む前から知っていたはずなのに、なぜ物語でその人となりに触れただけで死がここまで悲しくなるのでしょう。

繰り返して読みたくなる魅力

読むことに寂しさを感じる一方で、この小説は20代の頃に何度となく繰り返して読まずにはいられませんでした。きっと土方歳三という人間の生き方に魅入られたのだと思います。

戊辰戦争は新政府軍の勝利となり、幕府軍は敗者となりました。歴史の本などでその後の世の中の流れを知っているためか、もともと私の頭の中では「新政府軍=先見の明がある人」、「幕府軍=時代の風を読めない人」というイメージ。

しかし、『燃えよ剣』を読むと少し印象が変わりました。土方歳三は時勢が変わったことを知りつつも、敢えてその場に踏みとどまることを選んだように感じたからです。

新選組はその組織を確固としたものにするために、時には仲間を血の粛清にすることもありました。また、池田屋事件の頃から新政府軍と戦ってきました。自分たちの刃で多くの命を奪っておきながら、生き方を変えてしまうと今までに失われた命の意味は何だったのかともなりかねません。

背負うべき今までの所業と時代の風の狭間で、進む道を模索する土方の生き様。その当時の私には、とても魅力的に感じたのです。

読むたびに切なくなりながらも、何度も読まずにはいられない。『燃えよ剣』は20代の私にとって、通過しなければいけない本だったのかもしれません。

  • この記事を書いた人

えいえむ(詠山依麦子)

アラフィフ非正規おひとり様/ブログは2006年から(長い休止期間を含む)/

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