日本三大悪女と言えば北条政子、日野富子、淀殿。中国三大悪女と言えば呂后、則天武后、西太后。歴史上には後々まで名前が残った悪女が存在します。
悪女と呼ばれる人たちは良くも悪くもインパクトが絶大。そのためか小説・映画などの創作の世界でもたびたび登場しますよね。
では、日本昔話にまつわる悪女と言えばいったい誰なのでしょうか? 欲張りや意地悪というレベルを超越した人はと考えた時、個人的には二人ほど思いあたる人物がいます。
舌切り雀のおばあさんは心がけの良くないタイプの悪女
一人目は舌切り雀(すずめ)に出てくるおばあさんです。
あまりこのお話を知らない人のために、おばあさんが悪女だと感じる部分を書いておきますね。
舌切り雀とおばあさんのエピソード
おばあさんは以前から家で飼っているスズメのことを快からず思っていました。おじいさんがスズメを溺愛しているからです。
そんなある日、おじいさんが外出中に事件が起こります。おばあさんが洗濯をしていたら、スズメが洗濯のりをすっかり舐めてしまったのです。
カンカンに起こったおばあさんは、スズメの舌をハサミでちょん切ってしまいます。そして家から追い出してしまうのでした。
怒り具合が激しすぎて怖い
確かに洗濯をしている時にすべての洗濯のりを食べられたら腹が立つのはわかります。続きをするためには、一度家に帰って新しい選択のりを取りに帰らなければならないはず。二度手間な上に、おばあさんにとっては体力的にもきつかったのではないでしょうか。
けれども、スズメの舌を切ると言うのは犯した罪をはるかに超える罰です。おじいさんの愛情を一心に受けるスズメに対する嫉妬心も感じられて、女の情念の恐ろしさを見せつけられた気分になりますね。
ちなみに、「悪女」の定義を調べると、大きく以下の3つに分かれます。
悪女とは
1、容貌の醜い女。
2、心の悪い女。
3、男を魅了し、堕落させるような小悪魔的な女性。
(参考ページ)https://kotobank.jp/word/%E6%82%AA%E5%A5%B3-423375#goog_rewarded
舌切り雀のおばあさんの場合は「心がけの悪いタイプ」の悪女ですね。
かぐや姫は異性を翻弄するタイプの悪女
もう一人思い浮かぶのはかぐや姫です。
こちらも簡単に昔話のあらすじを書いておきますね。
かぐや姫の昔話
竹から生まれたかぐや姫はおじいさんとおばあさんに育てられて、三か月ほどで大人の背丈になりました。美しく育ったかぐや姫の元には、五人の貴公子が求婚にやってきます。これをかぐや姫は彼らに難題を与えることで追い払いました。
やがて、かぐや姫の美しさは帝にも知れ渡ることに! しかし、実はかぐや姫は月の都の人だったのです。帝やおじいさんが引き留めるのもむなしく、かぐや姫は育ててくれた二人に別れを告げて月に帰っていきました。
『竹取物語』バージョンのエピソード
ここまで書いていて気付いたのですが、私がかぐや姫は悪女だと思ったのは『竹取物語』の影響のようです。『竹取物語』バージョンでは帝との間に次のようなエピソードがあるんですよね。
月に帰るかぐや姫は、自分に求婚をしていた帝に「今はとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける」と和歌を送ります。そして、かぐや姫は天の羽衣を着せられて月に帰っていったのでした。
この帝への和歌が、私にとっては悪女中の悪女の証明に見えてしかたがありません。
私のことを忘れないで
かぐや姫は「天の羽衣」を着せられた瞬間にこの世でのことをすべて忘れてしまいます。おじいさんやおばあさんはもちろんのこと、帝についても記憶から抹消されます。
それを自分で知っていながら、かぐや姫がとった行動が帝に和歌を送ること。「今がこの世にいられる最後だと天の羽衣を着る時になって、あなたのことをとてもしみじみと思い出したことです。」なお、歌は意訳なので参考程度にしてくださいね。
この歌をもらって帝はどのような気持ちになったのでしょうか。これまで頑なに自分を拒絶していたかぐや姫が、最後の最後に自分に手を差し伸べてきたような気分になったのではと私は思うのです。
かぐや姫は別れた後に自分がつらい思いをしないようにあえて求婚を断っていたのだ。かぐや姫が月の者だという事情さえなければ自分たちは結ばれていたはずだ。
あっさりとかぐや姫が月に帰るよりも、和歌が届いたことによって帝はかぐや姫への思いを引きずることになりそうな気がします。
それはかぐや姫にも推測ができると思うのです。それなのに、なぜあえて帝に和歌を届けたのか。
「あなたに思われてとても幸せだったので、これからも私のことを忘れないでくださいね。(私はすぐにあなたのことを忘れるけどね。)」
帝への和歌は、自分を好きだった気持ちを忘れさせないための呪文的な意味を感じてしまうのです。かぐや姫は「小悪魔タイプ」の悪女だったのかもしれません。
もっと悪女はいるはず
個人的に思いついた日本昔話中の悪女は以上の二人です。
けれども、昔話はまだまだたくさんあります。探せばもっと様々なタイプの悪女が転がっているはず。
たわいもないことをあれこれと考えるのも時には楽しいものです。興味のある人は、自分でも考えてみてくださいね。