猫が好きなためでしょうか、本屋に行くとタイトルに「猫」が入っているだけで心惹かれることがあります。そうやって出会った本の一つがポール・ギャリコの『猫語の教科書』(ちくま文庫)。最初から最後まで猫満載の本でした。
なお、記事中にはネタバレを含みますのでご注意ください。
『猫語の教科書』とは?
『猫語の教科書』とは、あるメス猫が書いた原稿をこの本の著者が翻訳したという体裁で書かれた作品です。内容は「飼い猫として快適に生きるための方法を子猫やのら猫たちに指南する」というものでした。
飼い主を思い通りにあやつるにはどうしたらいいのか。
人間の家でのNG行動はこれ。
このような感じで執筆者である猫の猫生経験から得た教訓を後輩たちに余すことなく教えています。この猫がもしSNSの存在を知っていたら、インフルエンサー女子としてその界隈で人気になりそうですね。
ちなみに、本の表紙に写っている猫が本当の作者らしいですよ。
可愛いポーズの裏側で猫はこんなことを考えていた?
『猫語の教科書』の本編は、先ほども書いたように猫の立場で書かれています。それだけに、人間が読むと「猫って本当にこんなことを考えているのかもしれない」と思わされることがあるんですよね。
猫のかわいい姿は人間を魅了する
猫を飼ったことのある人ならこのような経験をしたことがありませんか? あまりにも猫が可愛すぎて、その姿を誰かに見せたいと思うことが。
寝ている姿がかわいい。
遊ぶ姿がかわいい。
甘える姿がかわいい。
リラックスする姿がかわいい。
その場に誰かがいれば「見てみて!」といいたくなるし、いない場合も写真を撮っておいて誰かに会った時にみせたくなります。
個人的には「猫が寝ている時に前足で顔を隠すポーズ」が好きで、スマホにはその系統の写真がたくさん保存してあります。下に乗せたフリー画像のような感じですね。

猫の立場から語られた真実とは
ところが、人間が魅了されるこのポーズについて『猫語の教科書』では次のように書かれていました。
寝ているポーズのなかでも、とくにかわいらしいのは、前足を片方だけ鼻にのせる、または前足を両方とも目の上にのせる。腕まくらをするというのもいいわね。あおむけでおなかをだすポーズは、とくにひざの上でしてあげると、みんな興奮して喜びます。
ポール・ギャリコ 『猫語の教科書』(ちくま文庫)。
私たちはその可愛さの前にメロメロになっていたのですが、これが猫の本音だとすればなかなかにあざといですね。確信犯以外の何物でもありません。どうやら人間は猫の手のひらの上で踊らされていたようです。
猫の本音を知ってしまってもかわいい
この調子で、本の中では猫の本音が語られていきます。
猫の本音を人間の世界に置き換えたらなかなかに怖い話だと思うんですよね。例えば、先ほどの可愛いポーズの話の場合は次のような感じになるのではないかと。
親戚の5歳の女の子がぬいぐるみを抱いてお昼寝をしていた。可愛いなと思って微笑ましく見ていたら、「こうやって寝たら大人は喜ぶんだよね。」と幼稚園の友達に言っているのを見かけてしまった。
なかなか末恐ろしい子どもですね。こういう本音はできれば聞きたくありません。
けれども、それが猫となると話は別。この本を読んだ私の頭の中はなかなかのお花畑でした。
そんなこと考えていたの? 賢いね。猫のためなら手のひらで踊らされてもかまわない。むしろ踊らされたい。運動神経が悪い人間だけど、猫のためならソーラン節でもブレイクダンスでもなんでも踊ってみせるよ。
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恐ろしいことを書いている自覚はあります。しかし、すべて猫が可愛すぎるのが原因なのです。
うちの猫と重ね合わせて読みたくなる
『猫語の教科書』の中で、私が最も心を動かされたのはここまでに書いたように可愛いポーズの話でした。しかし、それ以外にも、人間の世界でどうふるまえばうまく生き抜けるかが猫視点で書かれています。
おいしいものを食べるにはどうしたらいいか。
声を出さずにニャーオというと人間は何でもしてくれる。
そういう箇所を読むと、気がつくと自分が飼っていた猫と重ね合わせている時があるんですよ。あの時に飼っていた猫はこんなことを考えていたのかもしれないなと。
もちろん、本当の猫の気持ちは猫のみが知ることです。けれども、その一端に手が届いたような気分になります。
猫の世界を猫の視点で見てみたい。
そんな願望を持ったことのある猫好き人間の私にとっては、その願いがかなったような気持ちになる本でした。